このサイトについて(演習に関わるメタな視点で)
私がイタリア、ボローニャ郊外の博物館に行った時に撮った写真をもとに作りました。主に、
- アイテムの粒度の設定
- 対訳の管理
- メタデータの統制語彙
- 3Dデータの登録
の4つがポイントです。以下にそれぞれ説明します。ちなみに冒頭が上級向けなので読み飛ばし推奨です。
博物館のボードの書き起こしなどについては非公開にしています。
アイテムの粒度の設定
講義の中でもエンティティ、アイテム、など微妙に使われ方が違う2つの用語が紹介されていましたが、ここでは「アイテム」という用語で説明します。
アーカイブズの世界でよく言われることとして、アイテムレベルの管理とフォンドレベルの管理という2つの視点があります(国立公文書館のISAD(G): 国際標準アーカイブズ記述についての文書など参照)。アーカイブ資料では、Archival Bond (カジュアルに訳すと「アーカイブのまとまり」。この分野の第一人者京都大学文書館の橋本氏は「アーカイブズ結合性」という訳語を当てている)という概念があります。Wikipediaでもより広い意味での「文脈」と混同すべきではない。文脈は記録とは独立して存在するが、「Archival Bond は記録の重要な部分であり、それなしでは記録は存在しない」
(拙訳)とされるものです。そのような、解釈に必須なまとまりを明示することは、ちゃんと「アーカイブ」を意識した「デジタルアーカイブ」には期待されることだと思います。冒頭の用語で言い直すと、アイテムレベルだけではなく、フォンドレベルの管理がアーカイブ資料には求められるということになります。卑近な解釈に近づけるならば「情報のキリトリ」の問題が生じない、すくなくとも明確にキリトリの問題を指摘できる文脈を伴わせるようにすることが、アーカイブ資料には求められるということです。世の中で「デジタルアーカイブ」と呼ばれるものの多数派が、ちゃんと「アーカイブ」を意識していない、ということは、アーカイブズ学の方々から繰り返し指摘され、批判されてきました。
例えばアメリカの多くの博物館はアーカイブのシステムとしてArchivesSpace、アイテムレベルの情報管理としてThe Museum System、またメディアの柔軟な管理として、こちらはあまりこのシステムが圧倒的に使われているというものはなかったのですが、Digital Asset Management System (DAMs)と呼ばれるようなシステムを組み合わせて使っていることが多かったです(2018年当時。松山ひとみ氏の報告参照)。Omeka はこの中だと、アイテムレベルの情報管理を司るものです。でも、もちろんメディアも柔軟に管理できますし、アーカイブの階層も表現することも可能です。ですから、「アイテム」をしっかり見極めた上で、必要な文脈やメディアを伴わせるというのが重要になってきます。
博物館でのアイテムは比較的自明です。一点一点の資料です。そして、考古資料ならば同時に出土したまとまり、そしてその発掘のメタデータなどが解釈に必須の文脈になることでしょう。ああ、どうしても一言添えたくなってしまうのは、「比較的」であって決して自明ではないというのは念頭に留めておいてください。破片から復元した考古資料はもちろんのこと、組み合わせて使うことが想定されている近代の器具に至るまで、いつも、「アイテム1点」が何になるかは自明ではなく、目録を作る者がその基準を一貫させ、アイテムを管理をする技能と一体となっています、つまり技能が必要とされる営みなのです。逆に言えば「完璧」なアイテムの粒度の設定なぞ、プロでも難しいものなのだと思っていれば、アイテムの粒度の設定も少しは気が楽になるのではないでしょうか。
やっと、私の作ったサイトの「アイテム」の話に移ります。前置きが長いですね、すみません。メディアとしては博物館訪問の写真が中心なのに、「アイテム」が資料一点一点ではないです。「小麦の種まき」と「甜菜の種まき」です。まず、メディアとの対応から見ていきましょう。芸術作品の一枚の絵をスキャンした画像、史料としての古写真のデジタル版、ならば、画像一枚とアイテムが対応しているのも自然でしょう。でも、私の写真は国際会議の空き時間に英語のキャプションもない博物館でたまにGoogle翻訳カメラを使い大半は想像で補いながら観覧した博物館訪問でメモとして残した写真たちです。写真に資料が複数写っていますし、一つの資料を何枚も撮っていることもあります。博物館の構成全体を満遍なく撮影しているわけでもなく、写真が多い場所もあれば、全く撮っていない場所もあるわけです。
じゃあ、何を考えて撮っていたかというと、サイト名にもあるように「道具から見るイタリアの農業史」を頭の中に構成しながら観覧し、キーになりそうなモノや説明を撮っていたわけです。僕の頭の中に残っている「道具から見るイタリアの農業史」を語るためのパーツのうち、最小のまとまり、それが「小麦の種まき」や「甜菜の種まき」といったもので、それはこの博物館の説明パネル1枚とおおよそ対応しています。そして、この博物館は甜菜や蜂蜜など農作物でコーナーを分けていたので、同じ活動に関わる道具がバラバラに置かれているのをデジタルアーカイブ上では行き来できそうだなと思ったのです。
これが正解だとは言い切りません。どちらかというとデジタルアーカイブ的ではなく(私が専門とする)知識ベース的な発想なので、むしろ問題も抱えています。僕の「理解」のアーカイブにはなっているけれど、属人性が強すぎて、他の人の同じ博物館に関わる理解のアーカイブは全然別様でありうるわけで、イタリアの農業史に興味を持った研究者が汎用的に使うには、ちょっとクセが強すぎるわけです。そういう意味では講評の最後で中村先生が紹介されていたTropyで作って手元に留めておくのがいいかもしれませんね、著作権の問題もありますし。でもでも、人文系の研究なんて、属人性の強烈な研究データがとりあえず限定的に公開されて、それと、元の博物館のような記憶機関(Memory Institute)が汎用性や真にアーカイブ性の高い情報の公開を志向した情報が繋がって、他の関連する属人的な研究データも繋がって、緩やかに再利用されるというのが、人文系研究データの将来像なのかな、とか考えています。
対訳の管理
こうやって写真で撮ったイタリア語の資料を、文字に起こして訳して管理したくなるじゃないですか。最近だとLLM使えばかなりできますね、ChatGPTもGeminiもそういうの得意です。僕は昔ながらのやりかたで、Google Drive に写真を上げて、それを Google Docs で開くと OCR されているという手法でテキストを取り、DeepL で翻訳したりしてます。そういうちょっとした手間をかけた資料が管理できるのは嬉しいですよね。
甜菜の種まきのパネルを翻刻、翻訳したものを入れてありますのでご覧ください。
メタデータの統制語彙
メタデータの項目名について、広く使われているものを使うのがよい、その方が他の人の資料と繋がる、というのは中村先生の講義でも話されていました。みなさんのご発表を見ている限りでは、必ずしもそうではなく、まずは自由にメタデータをつけてから、部分的に広く使われているもの(共通語彙、などと呼んだりします)と対応をとっていった方がいいかもという事例もありましたが、基本的には講義で話された通りです。
項目名だけではなく、値についても共通語彙のリストが存在します。博物館資料で使えるように作られているものの一つがGetty AATという語彙です。アメリカのゲティ財団が編纂しているもので、各国の専門家たちと協力して辞書を拡充したり翻訳したりしています(私は日本のカウンターパートメンバーです)。Getty AAT の中の用語だと、私のアイテム2つを繋げるにあたって、種まきという行為sowingなどが指定しえます。「種まきに使う機械/器具」というのもあったのですが、多くは種を穴に入れる機能も付いているものが多く、播種用の熊手とかは想定されているのか微妙だったんですよね。播種用の熊手がどのくらい播種専用なのかわからないのですが。
私は前述の通り Getty AAT の関係者で、皆さんに使っていただくべき立場というのもあるのですが、正直、農業関係の用語だと専用の agrovoc の方がよく整理されていて情報も多いので、そこから播種、熊手、小麦、甜菜にもリンクしたりしました。
3Dデータの登録
デモでも示されていたようにSketchfabから著作権的にOKなデータを持ってきて載せてみました。はじめgltfファイルでアップロードしようとして、テクスチャも一緒になっているglbじゃないと受け付けてなかったとか、IIIFビューワーのデフォルトの設定がversion2 だったので中村先生にversion3 がデフォルトになるように変更してもらったとか、チョットつまりつつも表示に成功しました。元ファイルではほかのものも並んだ3Dデータだったので、Blender を使って当該の農具だけ切り取りました。
本当は下向きに歯をつけたいのだけれど、編集能力がなくできていない。見つけてきたDIY動画の通りたぶん、持ち手と並行方向に突起がついていて、スタンプみたいにして地面に穴をあける道具だと思うんだよね、piantatoio multiplo (rastèl par sumnèr)